デザイン思考で変わるビジネス|実践ステップとコツ

こちらのニュース記事を読みました。
キヤノンMJがグループ全体1万人に「デザイン思考テスト」導入

こちらの記事で紹介されている「デザイン思考」は、単に見た目を美しくするデザインの技術を超え、問題解決のためのアプローチとして注目されている思考法です。
以前「なぜビジネスにデザインが必要なのか?」を考えるという記事の中で、
デザイン思考について触れたことがあります。
今回はデザイン思考の具体的なステップを整理して、
事例や自社に取り入れる際のコツについても考えてみたいと思います。


デザイン思考とは?

デザイン思考は、デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を指す言葉です。
この思考法は、見た目や製品のデザインだけでなく、
会社がどのように仕事を進めるか
新しい戦略をどう立てるか
会社の文化自体をどう変えていくか
といった、ビジネスのあらゆる面において、革新をもたらす力を持っていると言われています。


デザイン思考の5つのプロセス

デザイン思考は、ユーザーのニーズと課題に深く共感し、その解決のために創造的な解決策を探求するプロセスです。
このプロセスは、共感(Empathize)問題定義(Define)アイデア創出(Ideate)プロトタイピング(Prototype)テスト(Test)の5つのフェーズに分けられ、各フェーズは反復的であり、同時に進行することもあります。

共感(Empathize)

このステップでは、ユーザーのニーズ、感情、動機を深く理解することが目標です。
インタビューや観察、アンケートなどを通じて、ユーザーの経験や課題に共感し、その視点から問題を捉え直します。
実例として、ある製品のデザインチームが、実際にユーザーの生活に同行し、彼らの日常を観察することで、新たな洞察を得たケースがあります。

定義(Define)

共感フェーズで得た洞察をもとに、具体的な問題点を明確に定義します。
このプロセスでは、問題をユーザーの視点から言語化し、チーム全員が共通の理解を持てるようにします。
例えば、ユーザーが特定のサービスを使いにくいと感じている理由を、明確な問題として定義します。

概念化(Ideate)

問題が明確になったら、ブレインストーミングやスケッチ、ストーリーボーディングなどの手法を用いて、創造的な解決策を大量に生成します。

プロトタイピング(Prototype)

アイデアの中から実行可能と思われるものを選び、簡易モデルや原型を作成します。
このステップでは、アイデアを形にし、実際に触れられるものを作ることで、概念をより具体的に理解し、改善点を見つけ出します。

テスト(Test)

最後に、プロトタイプを実際のユーザーに使ってもらい、フィードバックを得ます。
生み出した手段が実際にユーザーの問題を解決できるかを検証し、必要に応じてアイデアを再評価または改善します。


デザイン思考のプロセスの目的は、ユーザーのニーズに最も合致する解決策を見つけ出すことにあります。
これらのステップは相互に関連し合っており、しばしば繰り返し行われます


デザイン思考を取り入れた事例

デザイン思考を採用し、顕著な成果を上げた企業は数多く存在します。

  • 任天堂の「Wii」

    任天堂のWiiは、日本でデザイン思考を取り入れた顕著な例です。
    この時期、ゲームが子どもたちと親の関係に悪影響を及ぼし、子どもがリビングで過ごす時間の減少によって家庭内コミュニケーションが希薄になるなどの社会問題が指摘されていました。
    この状況を背景に、「家族全員で楽しめるゲーム」というアイデアが生まれました。

    それを具体化するために、どんな人でも操作しやすいコントローラーや、リビングに置いても違和感のないスタイリッシュな本体のデザインなど、多くのプロトタイプを作りながら開発が進められました。

  • アキレスの「瞬足」

    「瞬足」は、小学生向けに設計された運動会や通学用の靴として、2003年にアキレス株式会社から発売されました。これは、運動会での競技に特化し、子どもたちがより速く走れるように開発されたシューズです。

    開発チームは、小学校の運動会で使用される靴の写真を長年収集し、狭い運動場やコーナーでの走行時に子どもたちがバランスを失いやすいこと、また転倒することが多いという問題に注目しました。さらに、調査により、多くの小学校の運動場が左回りであることが判明しました。

    この発見から、「左回りのコーナーでも安定して走れるシューズ」の需要があることに気づきました。そこで、左右非対称のソールを持つ、革新的なシューズ「瞬足」を開発。このユニークな機能が受け入れられ、大成功を収めたのです。

  • ロート製薬のECサイトリニューアル

    ロート製薬は2020年末より「D2Cプロジェクト」をスタートし、2021年7月にはECサイトを大きくリニューアルしました。
    このリニューアルでは、従来のブランド中心からユーザー中心へと焦点を移し、デザイン思考を活用して発想の転換を図りました。

    このプロセスでは、既存のオンラインショップ利用者を対象に、30代から70代までの幅広い年齢層の16人と約90分間のインタビューを実施。
    彼らの行動背景に深く迫り、理解を深めました。

    インタビューで得た知見を基に、ユーザーの行動、思考、感情を時系列で整理し、カスタマージャーニーとして可視化しました。このアプローチにより、商品紹介やケア方法を伝える記事や特集などのコンテンツを充実させることができました。
    ※カスタマージャーニー・・・顧客が製品やサービスを知ってから購入するまでの過程の分析

デザイン思考の具体的なステップとコツ

「共感」のフェーズ

  • 観察する
    ユーザーの日常を観察し、言葉と行動の間の矛盾や、彼らが意識していない可能性のある行動回避策を見つけ出します。
    これらの観察から、重要な洞察を得ることができます。
  • 関わる
    ユーザーとの会話を通じて、彼らの経験や感情を深く理解しましょう。
    常に「なぜ」と問いかけることで、その背後にある深い意味を探ります。
  • 見て聞く
    ユーザーの日常的な行動を観察しつつ、その行動の理由を質問することで、彼らの考えや感情をより深く理解します。

「 定義」のフェーズ

この段階では、観察と対話から得られた情報をもとに、ユーザーが直面している真の問題を定義します。
違和感や印象に残った点について深く考え、その背後にある要因を探ります。
最終的には、解決すべき具体的な問題を一つに絞り込みます。

「想像」のフェーズ

問題が明確になったら、解決策を生み出すためのアイデアを自由に発想します。
この段階では、アイデアの質よりも量を重視し、評価と選定は後回しにして、創造性を最大限に引き出します。

「試作」のフェーズ

  • 道具を準備する
    プロトタイピングを始める前に、紙、テープ、その他の手元にある材料を集めます。これらはアイデアを形にするのに役立ちます。
  • 1つのプロトタイプに長い時間をかけない
    プロトタイプは、アイデアをテストし、学びを得るための手段です。
    完璧を目指すのではなく、素早く構築してテストに移りましょう。
  • 検証したい仮説を言語化
    作成するプロトタイプが何を検証するのかを明確にしておきます。
    検証する際は、顧客が答えやすいように事前に質問を準備します。
  • 顧客目線で考える
    「顧客には何を検証してもらいたいのか」「どのような行動を期待しているのか」を考えながらプロトタイプを作りましょう。
    この視点は、検証段階での有益なフィードバックを得るために重要です。

「検証」のフェーズ

  • 言うのではなく見せる
    プロトタイプをユーザーに直接見せ、触れさせて、彼らの自然な反応を観察します。
    言葉で説明するのではなく、ユーザー自身にプロトタイプを体験してもらいましょう。
  • 顧客に比較を依頼する
    複数のプロトタイプがある場合は、それらをユーザーに比較してもらいます。
    異なるオプションを試すことで、ユーザーの真のニーズや好みが明らかになることがあります。

今回は「デザイン思考」について、改めて学び直してみました。
デザイン思考は小規模ビジネスでも十分に取り入れることのできる思考法であり、チーム全体で考えを共有して取り組んでいくことが大切だと感じました。