ロバート・チャルディーニ氏の著書「影響力の武器」という書籍があります。

チャルディー二氏は、街頭や個別の訪問販売、怪しげな宗教の寄付などで苦い思いをした経験から、人がどのような心理的メカニズムで物を購入するのかを研究したそうです。
この本の中では、そういった研究から考えた、6つの人を動かす原即について紹介されています。
- 返報性のルール:何かをもらったら、何かを返そうとする人間の自然な傾向。
- コミットメントと一貫性:一度決めたことには一貫して従おうとする心理。
- 社会的証明:他人が行うことを見て、自分もそれが正しいと判断する傾向。
- 好意:好かれる人や事物に対して、より肯定的な反応を示す心理。
- 権威:権威ある人物や情報源からの意見や推奨を重く受け止める心理。
- 希少性:入手困難なものは価値が高いと感じる心理。
これらの心理的な原則を理解し、マーケティング戦略に上手に取り入れることができれば、消費者の決断に影響を与え、自社の製品やサービスへの興味をより高めることができると思います。
そこで今回は、各原則を掘り下げ、マーケティング戦略への応用について考えたいと思います。
返報性のルール
返報性のルールは、誰かから何かを受け取ったとき、私たちはその恩を返すために心理的に動機づけられるという心理学的原則です。
マーケティングでの応用
・無料サンプルの提供
製品の無料サンプルを消費者に提供することで、返報性のルールを活用することができます。
無料で何かを受け取った消費者は、何らかの形でその恩を返そうとする傾向があり、これは後に購入へとつながることが多いと言われています。
・有益な情報の提供
ブログ記事や無料の電子書籍、ワークショップの提供も返報性の原則を利用しており、役立つ情報を無料で提供することで、ブランドに対して良い印象を持ち、製品やサービスへの興味を高める効果があると考えられています。
実践のポイント
消費者が価値を感じる何かを提供することがポイントです。無料だからといって何でも良いわけではなく、実際に役立つものである必要があるので、
提供する無料サンプルや情報が、最終的に製品やサービスへの興味を持ってもらうきっかけになるように計画することが重要になります。

コミットメントと一貫性
コミットメントと一貫性の原則とは、一度コミットメント(約束や決定)を行うと、自分の行動をそれに一致させようとする心理的傾向のことで、
個人が、一旦公言したり、行動を起こしたりすると、それに矛盾する行動をとりにくくなるという心理を利用します。
マーケティングでの応用
・サインアップインセンティブの提供
一度サインアップすると、そのブランドに対して一貫した行動を取りやすくなると言われており、ウェブサイトへのサインアップやアンケートの回答に対して、何かしらのインセンティブを提供することで、消費者のコミットメントを促すことができます。
・公開のコミットメントの促進
顧客が公に製品やサービスへの支持を表明するキャンペーンを行うことで、その後もブランドへの忠誠心を保ちやすくなると言われており、例えば、SNSでの投稿を促すことで、その人のネットワークに対してもブランドの認知を広めることができます。
実践のためのヒント
顧客が行うコミットメントは、できるだけ具体的かつ達成可能なものにする必要があり、難しすぎる目標は顧客を遠ざける可能性があるので注意が必要です。
コミットメントを促す際は、顧客に明確な利益を提示することが重要で、そうすることで、コミットメントの価値を高め、顧客の行動変化を促すことができると言われています。

社会的証明
社会的証明は、人々が他者の行動を模倣する心理的傾向に基づいた原則で、特に不確かな状況や判断が難しい場面で、他人の行動や選択を参考にすることが多いようです。
マーケティングでの応用
・顧客のレビューと推薦
実際に使用した人々の肯定的な体験談は、新たな顧客にとって強力な説得材料となるので、製品やサービスのページに顧客のレビューや推薦を掲載することで、新規顧客の購買意欲を刺激できます。
・インフルエンサーとの協力
インフルエンサーが製品を使用している様子をSNSで共有することも、社会的証明の一形態と言えます。
インフルエンサーが推奨する製品に対して、彼らのフォロワーは肯定的な印象を持ちやすくなっているからです。
実践のためのヒント
偽のレビューや操作されたレビューは、長期的にはブランドの信頼を損ねる原因になるため、レビューを集める際は、確かな情報を誠実に掲載できているか確認する必要があります。
またインフルエンサーを選ぶ際は、その人物が自社のブランドや価値観に合致しているか慎重に見極めることが大切で、親和性が高いインフルエンサーと協力することで、より説得力のある社会的証明を提供できます。

好意
好意の原則は、人々が好意を持っている人やブランドからの要求に応じやすいという心理的な傾向に基づいています。
好意は親しみやすさや相互の尊敬から生じることが多く、これを活用することで、顧客との信頼関係を築きやすくなると言われています。
マーケティングでの応用
・顧客サービスの質の向上
親切で迅速な対応をすることで、顧客の信頼と好意を獲得でき、リピート購入や口コミが促進されますから、
優れた顧客サービスは、好意を生み出す重要な要素だと言えるでしょう。
・ブランドの人間的な側面を強調
顧客は自分たちの価値観を反映するブランドを好む傾向にあるので、ブランドが社会的な活動に参加したり、顧客のストーリーを共有することは、ブランドへの好意を高めるのに効果的です。
実践のためのヒント
常に顧客の期待を超えることを目指すのが重要です。小さなサプライズや追加のサービスは、顧客の記憶に残りやすく、好意を引き出すのに役立つと言われています。
さらに、人々は個性的で真実味のあるブランドに惹かれる傾向があるので、企業としての個性や価値観を積極的に表現することで、顧客との関係を深めることができます。

権威
権威の原則は、人々が専門知識や地位を持つ個人や組織からの意見や勧めを重く受け止める心理的傾向に基づいており、
権威があると認識される情報源は、信頼性が高いとみなされ、そのアドバイスや製品は、より説得力を持つと言われています。
マーケティングでの応用
・専門家の推薦
専門家による推薦は、消費者の購入意欲を促進する重要な要因となるので、専門家や業界リーダーが製品やサービスを推薦することで、その信頼性を高めることができます。
・認証と資格
公式の認証は、消費者にとって信頼の証となりますので、製品が特定の認証や資格を有していることを強調することで、品質や安全性を保証することができます。
実践のためのヒント
専門家や影響力のある人物を選ぶ際は、その人物が製品やサービスと親和性が高く、その分野で認知されていることが重要で、適切な人物による推薦は、その効果を大いに高めることができます。
製品の認証や資格については、それが消費者の利益にどうつながるか明確に説明することが重要で、ただ認証を有していると言うだけでなく、具体的にどのようなメリットを提供するのかを顧客が理解できるよう工夫することが大切です。

希少性
希少性の原則は、人々が入手困難なものや限定されたものを、より価値があると感じる心理的傾向に基づいています。
この原則は、商品やサービスの希少価値を強調することで、消費者の購買意欲を刺激するのに非常に効果的です。
マーケティングでの応用
・限定版商品
消費者は、他の人が持っていなかったり、手に入れにくいものを、手に入れることに価値を見出すと言われていますので、限定版や特別バージョンの商品を提供することで、その商品の独特さと希少性を強調することができると考えられています。
・時間限定のオファー
セールやプロモーションを期間限定で行うことで、緊急感を創出し、消費者の、
“今すぐに行動しないと機会を逃す”という感覚を利用して、速やかな購入決定を引き出すことが可能になります。
実践のためのヒント
希少性を訴える際には、その真実性を保持することが重要で、誇張されたり不正確だったりする情報を提供すると、長期的にはブランドの信頼性を損なうリスクにつながります。
また、ターゲットとする顧客層が、何に価値があると感じるかを理解し、それに応える希少性の訴求が効果的で、特にコレクターアイテムや限定商品は、特定の趣味や関心を持つグループの心情に、強くアピールすると言われています。

今回は、ロバート・チャルディーニ氏の「影響力の武器」に書かれている6つの心理学的原則を紹介し、これらがどのようにマーケティング戦略に役立つかをまとめました。
これらの原則を上手に取り入れることで、顧客の購買決定に賢くアプローチすることが可能になると思いますので、ぜひうまく活用していきたいところです。