「今月中でいいよ」が一番危険。クリエイターが陥る「ふんわり案件」と先延ばしの脱出法

「とりあえず、今月中に初稿をもらえれば大丈夫なんで」

クライアントからのその言葉。 聞いた瞬間は「よかった、急ぎじゃないんだ」とホッとするのに、数日経つと、ふとした休憩時間やお風呂の中で「あ、あれ手をつけてないな…」と脳裏をよぎる、無視できない重圧に変わっていきませんか?

今回は、私たちを地味に苦しめる「期日の長いふんわり案件」と、そこから抜け出すためのシンプルな心構えについてお話しします。


デスクは綺麗になった。でも、仕事は進んでいない

ある日の夕暮れ時、ふと我に返ると、デスク周りがやけに綺麗になっていることに気づきます。 散らばっていた書類を揃え、キーボードの隙間の埃を取り、なんならデスクトップのアイコン整理まで完璧。

「あれ、私、今日一日なにしてたんだっけ?」

画面の中にある「クライアントからの案件」は、朝からほとんど進んでいません。 サボっていたわけではないんです。何かはずっとしていた。 でも、一番やらなきゃいけない「あの仕事」だけが、ぽっかりと手付かずのまま残っている。

この時の自己嫌悪は、本当に嫌なものです。「自分はなんて意志が弱いんだろう」と落ち込んでしまいます。

でも、少しだけ弁護をさせていただくと、これは性格がだらしないからではありません。 私たちクリエイターは、「締め切り」というゴールテープが見えないと、うまく走れない生き物なんです。


自由すぎる環境は、逆に不自由

制作の現場では、いつも「金曜納品!」「至急修正!」といったプレッシャーの中で戦っています。 大変ですが、実はその「強制力」がエンジン代わりになっていることも多いのです。

そこへ突然、「いつでもいいよ」という自由が与えられると、エンジンのかけ方がわからなくなってしまいます。 脳は、正解のない制作作業のストレスを避けようとして、無意識に「仕事をしている気になれる、楽な作業」へ逃げようとします。(心理学用語でプロクラスティネーションと呼ぶそうです。)

一番の問題は、「誰にも怒られないし、なんとかなってしまう」ことです。 結局、期限ギリギリに徹夜で頑張れば、終わらせることはできます。 でも、そこには「もっとこう試したかった」「新しい技術を使いたかった」という余裕はありません。ただ帳尻を合わせただけになってしまいます。

「ちゃんと自分で管理して、いい仕事をしたいのに」 そう思っているのに体が動かない。そのジレンマを抜け出すには、どうすればいいのでしょうか。


意志の力は使わない。「きっかけ」を自分で作る

結論から言うと、「やる気を出そう」と頑張るのはやめましょう。 意志の力で解決できるなら、とっくに解決しています。

必要なのは「自律」ではなく、「他人の目」をちょっとだけ借りることです。

1. 「途中経過」を見せる

案件をもらったその日に、担当者や上司にこう連絡します。

「方向性が合っているか確認したいので、水曜日にラフ(下書き)の段階で一度見てもらえませんか?」

完成品じゃなくて大丈夫です。こうすることで、「なんとなく月末」だった期限が、「今週の水曜日」という明確なゴールに変わります。 自分ひとりで悩む時間を強制的に終わらせて、他人の目を入れるきっかけを作ってしまうのです。


2. 「作業」ではなく「実験」と呼んでみる

「あの案件を進めなきゃ」と思うと、気が重くなります。 なので、少しだけ呼び方を変えてみてください。

  • × クライアントワークをこなす
  • ○ 新しいツールを試すついでに、あの案件を触ってみる
  • ○ 30分だけ、どこまでアイデアが出るか実験してみる

「やらなきゃ(義務)」を、「ちょっと試したい(実験)」にすり替えるイメージです。 私たちの原動力は、責任感よりも「好奇心」です。手を動かし始めてさえしまえば、意外と集中できるものです。


昨日の自分を責めるのは、もう終わり

「今日も何もできなかった」と自分を責めても、明日のパフォーマンスは上がりません。 むしろストレスで、また現実逃避したくなるだけです。

楽な方に流されるのは、あなたが正常な人間である証拠だと思います。 だからこそ、その性質を逆手に取ることが必要です。

今抱えている、あのふんわりした案件。 あえて明日、「進捗共有したいので、ちょっとだけお時間いいですか?」と連絡してみませんか?

そのチャットを1通送るだけで、止まっていた時間はきっと動き出すはずです。