営業といえば「アイスブレイクが大事」と昔からよく言われており、初対面の方との距離を縮めるには、和やかな雰囲気を作る“雑談”が有効だと言われており、実際、営業の現場では「キドニタチカケシ衣食住」(気候・道楽・ニュース・旅・知人・家族・健康・仕事・衣類・食事・住居)といった覚えやすい合言葉があるほど、雑談が重宝されてきた背景があります。
しかし近年、雑談に対してあまり好感を持たない購買担当者や、雑談の必要性を感じないトップセールスマンの考え方も注目されており、雑談は本当に必要なのか? と感じてしまいます。
今回は「営業における雑談の必要性と効果」について、さまざまな視点から考えてみようと思います。

雑談(アイスブレイク)が生まれる背景
なぜ雑談は重視されるのか?
営業現場では、「相手との心の距離を縮める」ことが大切で、初対面のときはお互いに緊張しているため、いきなり商談の本題に入ると会話が硬くなりがちです。雑談を挟むことで空気が和み、「もっと話してみよう」という気持ちを高める効果が期待できると言われています。
「キドニタチカケシ衣食住」の活用
雑談が苦手な方のために、雑談でよく使われる合言葉が「キドニタチカケシ衣食住」。
たとえば「最近、旅(タ)が趣味なんですが、おすすめの場所はありますか?」など、身近な話題から相手の趣味・嗜好をつかむことで、会話をふくらませやすくなると言われています。
- キ:気候
- ド:道楽(趣味)
- ニ:ニュース(時事ネタ)
- タ:旅
- チ:知人
- カ:家族
- ケ:健康
- シ:仕事
- 衣:衣類
- 食:食事
- 住:住居
このように、「何を話したらいいか分からない…」というときでも、会話の“とっかかり”を与えてくれるのが雑談の大きなメリットではあると思います。

雑談を好まない購買担当者が存在する理由
一方で、「雑談は不要」「早く本題に入ってほしい」と考える購買担当者も多いかもしれませんが、特に以下のような理由で、アイスブレイクが逆効果となるケースがあると言われています。
- 雑談が苦手
「初対面で知らない人と話すのが苦痛」「何を話せばいいかわからない」と考える人にとって、雑談はストレスの原因になりがちで、むしろ“放っておいてほしい”という方もいるため、無理に雑談を振ると逆に壁を作ってしまう可能性があります。 - 時間が限られている
特に、意思決定権を持つ役職者ほど時間に追われている傾向があるため、「雑談している暇があるなら早く本題に」という気持ちが強く、ダラダラしたアイスブレイクはむしろマイナスの印象を与えてしまうこともあります。 - 話が“つまらない”と感じられてしまう
相手にとって興味がない話を振られても、聞き流す時間がもったいないと感じさせてしまう場合もあると思います。
「初対面で一切雑談をしない」
トップセールスマンの事例
ある会社のトップセールスマンは、初回訪問で一切アイスブレイク(雑談)をせず、受付から会議室へ移動し、名刺交換をして席に着いたら、すぐ本題に入るそうです。
理由1:商談結果への影響は小さい
BtoBの取引においては、「最初の雑談が大きく影響するわけではない」と考えているそうで、むしろ重要なのは、その後の提案力や、相手の要望を正確に把握するためのヒアリングだと考えているそうです。
理由2:本題がしっかりしていれば、あとから雑談になる
商談の中身が充実していると担当者も営業マンに興味を持ち始め、自然に「ところで、普段はどんなお仕事を?」「趣味はなんですか?」といった雑談が生まれることが多いそうで、雑談よりもまず本題で期待以上の価値を提供することが先決という考え方だそうです。
このケースはあくまでも一例であり、「アイスブレイクの正解」を示すものではありませんが、「雑談が苦手な相手や場面なら無理にしなくてもいい」「必要以上に時間をかけるより、本題重視で進めるほうが好まれる場合がある」という示唆を与えてくれると思います。

小規模ビジネスの営業担当者が
意識したいポイント
自社の商品・サービス特性を見極める
BtoB、BtoC、業種・商材によってお客様が求めるスタンスは異なり、大きな案件やIT系サービスのようにシビアなコスト比較が重視される商談では、雑談が省略されることも多いと思いますが、一方で、イメージやデザイン性の提案が重視されるクリエイティブ分野では、雑談が有効な場合があります。
相手の性格や状況を瞬時に判断する
相手が役職者なのか雑談好きなタイプなのか、初対面が苦手そうなのかを短い時間で観察し、必要に応じてアイスブレイクの「量」と「質」を調整することがポイントで、柔軟な対応が求められます。
「雑談力」よりも「本題重視」のスタンスを忘れない
雑談の目的はあくまでも「距離を縮めること」であり、もし雑談を行うにしても、大事なのは「具体的な商談内容」を明確に用意しているかどうかだと思いますし、最初の雑談がいくら盛り上がっても肝心の本題が曖昧だと信頼は得られないと考えます。
雑談するなら、相手に有益な話題を
「興味を持ってもらえる」話題を扱うことが基本で、たとえば相手の会社や業界に対するリサーチを事前に行い、それをネタに雑談へと広げていくと価値ある情報交換ができる可能性が高まります。

営業における雑談(アイスブレイク)は、「相手との心理的距離を縮める手段」として昔から重宝されてきましたが、すべてのビジネスシーンで効果的とは限らず、忙しい購買担当者や雑談が苦手なタイプの方に対しては、マイナスに働く場合も考慮しなければならないと感じました。
結局のところ、「雑談をする・しない」が重要なのではなく、以下を押さえることが大切だと考えます。
- 相手の状況や性格を見極める
- 商談のゴールを明確にし、その価値をしっかり伝えられる準備をする
- 雑談よりも、本題が充実していれば自然と関係性は築ける
雑談はあくまでも武器のひとつであり、自社の特性やお客様の要望に合わせて、“最適な使い方”を見つけていくのが得策だと考えます。
参考記事
・https://www.canon-esys.co.jp/dayone/resource/971/